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ロケットの文明

(Thu)

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 結局のところ、なるようにしかならないのだ、と思う。

 例えば次の木曜日に、かのご近所の国がロケットを打ち上げたとする。わたしはちょうどその日に街にでかけていて、外でゆったりと歩いていることだろう。ぼんやりと前を行くおばあさんの後頭部を見ていたら、突然目の端で何かがきらりと光る。あ、光った、かな? と思ってその瞬間後、わたしは頭にロケットの破片食い込ませて死んでいる。なんてことがあるかもしれない。

 でもわたしは何もできない。日がな一日ぼけっと過ごしているだけのわたしに、空から突然降ってきたものを避ける能力などあるはずがない。


 例えば数年後、東京にまでたどり着いた放射能が害をなし、東京はもう首都としては使えなくなったとする。わたしは汚染された水を飲み、汚染された日向で干された布団で眠り、汚染された土地で学ぶ。こちらの方が大分あり得そうな話であり、これに怯えて生きる人間は多い。でも実際、できることなんてない。


 「だからね、なるようにしかならないんだよ」
 「では君は破滅をわかっていても、普通に生活すると言うのか」
 「そう。だって無意味。」


 破滅すると言うならきっとそうなのだろう。
 彼の言うことはいつも、それなりに正しい。


 「人間が多分、文明に依りすぎたせいだと思うの。そもそもあなたの言う普通ってなに?」
 「普通はふつう、だよ。君が毎日生きるように」
 「わたしが生きていることが普通だとは限らないと考えてはみないものかしら。でもそれはいいとして、わたし達は編み出した文明に依って生きて、それがないと生きていけない身体に造り変わってしまったと言うのに、いまさら何をしようと言うの?」



 ロケットも放射能も、きっと避けては通れなかったにちがいない。

 自我が生まれて、愛がうまれて、文明だとかそんなものが発達して、そうしたら次に生まれるのは諍いなのだ。すべて自分たちで生み出したものではないか。

 「文明なんて壊せないものを作ってしまったのだから、最期までそれを信じて生きればいいじゃない」
 「そうやって人間が色々なものを壊していくんだろう」
 「それじゃあなた、明日から電気も水も電車も箸も使わずに生活してごらんなさい。あなたってばまるで人間みたいなこと言うんだから」


 彼は何か言おうとしていたがやめた。わたし達はまだ、今日も普通に生きている。



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黒い海

(Wed)

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 白のワイシャツの袖が張り付いて気持ちが悪かったことを、今でもよく覚えている。


 正直なところ、プールなんて気分ではなかったのだ。寒いし、水も汚いし、ばかばかしいと思った。

 『午前一時に、プールサイドで』

 丁寧に破ったルーズリーフの端っこを握って、貝吹はため息をついた。同じ高校生とはとても思えない綺麗な字は、あまりにとっぴな約束を一方的に突きつけてくる。むき出しの頬は寒さに触れてむしろぴりぴりと熱く、吐き出した息は白くくぐもっていた。寒い。
 東京だって、十二月は寒いのだ。プールなら夏にいくらでも見られるはずが、なぜ真冬の、それも夜中に他人を巻き込んでまで見にいかなくてはならないのか、貝吹にはその思考が理解できなかった。それも、高校生の女の子を、夜中にだなんて。あいつは勉強はできるくせに、馬鹿なのだろうか。それとも律儀に応じる自分が馬鹿なのか。とは言え呼び出しを無碍にすることはできなかったので、今こうして歩いている。

 三時間目と四時間目の間にルーズリーフの切れ端を押し付けてきた足立の姿がよみがえる。足立はなんとなく浮ついた目でこちらを見ながら、無言で紙切れを渡してそのまま理科室に行ってしまった。足立と貝吹は同じ中学の出身で、知り合って以来もう五年近くも経つが、足立がこんな風に浮かれているのは珍しい。何かいいことでもあったのかと思えば、書いてあることは意味不明の一文のみである。午前一時に、いったいどうやって学校に入ればいいというのか。
 足立に紙切れを渡されたところを見た貝吹の友人は告白の呼び出しだと沸いたものの、そういったことをするには不向きであろう指定を知って、呆れてしまった。貝吹にも何があるのかおおよそ検討がつかず、つい先ほどまで本当に行くかどうか悩んでいたのだ。足立と知り合って五年間、確かに愉快な思考を持つ友人ではあったけれど、あまり常識がないような行動はなかったように思う。



 実はうちの学校のプールの入り口の鍵、一箇所壊れてるからいつでも入れるんだよ、と友人に教わったフェンスの途中にある扉に向かう。どこか遠くのネオンの光で薄暗く浮き上がった人影が、こちらを振り向いた。足立だった。

 「貝吹。来てくれたのか」
 「そりゃ、まあ」

 小声で答えながらそっとドアを押すと、なるほど簡単に開いてしまった。開ける瞬間の緊張に比べて、あっけらかんと開いてしまった。

 「滑って落ちんなよ」
 「あんたと違ってそういうことはないね」
 「おれが突き落とすかもよ?」
 「そんなことのために呼んだの?」
 「いや? ちがうけど」

 一応注意深く、足立のもとに歩いていく。足立は見慣れた灰色のコートに、赤いおしゃれなマフラーをまいていた。いつも足立はおしゃれな男で、女のくせにおしゃれが苦手な貝吹には、足立のファッションセンスは多少憂鬱だった。やっぱり自分は垢抜けないなあと思いながら、貝吹は足立の横に立つ。

 「夜のプール、綺麗だろ」
 「そうだね。うん。初めて見た。というか初めて夜に学校来た」
 「だろ。見してやろうと思って」

 黒い水面には、ちらちらと光が揺れている。ときどき風が枯葉を運んできては、まるで大きな海に出た小さな船のように水面に放り込んでいった。
 足立はそれきり黙ってしまって、貝吹も何も言わないでいた。今何か言ってしまえば、何かの均衡が崩れてしまう気がした。どうしようかな、と少し悩んで、貝吹は急に走り出した。足立が驚いて呼んだけれど、聞こえないふりをする。一瞬躊躇したけれど、貝吹は止まらなかった。それでいいと思って、黒い水面に思い切り飛び出した。

 「貝吹!?」
 「うおおおおおやばいさむい死ぬさむい死ぬ死ぬ死ぬ!」

 今まで何のために小声で喋っていたのかわからないほど派手な音と共に、太い水柱が立った。
 瞬時に後悔しはじめて、慌ててへりに泳ぎ寄る。寒い、と連呼しながら、凍える指をプールサイドにつくが、なかなか力が入らない。結局つるつると指を滑らせて、再びぼしゃんと音を立てて浸かりきってしまった。

 「……貝吹早くあがれ、ほら」
 「いらん」
 「馬鹿言うな風邪ひくぞ」

 手を伸ばしてくる足立を無視して、ぱしゃぱしゃと手で水を弄ぶ。しなしなの枯葉が手にまとわりついて、さっきまでは船のようだと思ったのに、気持ち悪くさえ思った。

 「あだち、わたしと約束をしよう」
 「いいから早くあがれよ」
 「したらあがる」
 「わかった、約束する」

 水の揺れる音を聞きながら、貝吹は足立をじっと見つめる。足立を傷つける言葉だって知っているのだと思うと、泣いてしまいそうになった。

 「もう、夜のプールには来ないで」
 「……なぜ」
 「わたし、この黒い水の中でなら、何でも言えちゃうから。言いたくないことも言ってしまうかもしれない」
 「……………言いたくないことって?」
 「言わない。言いたくないから」

 でも、と貝吹は続ける。チラと足立を見上げると、泣きそうな目がぼんやりと照らされていた。

 「いつかもっと、明るい日差しの下なら、きれいなわたしでいられるかもしれない」

 自分でも言ってることがよくわからなかったし、きっと足立もわからないだろう。それでいい。今は何も聞きたくないし、まともな答えなんて何も持っていないと思った。

 「約束して」
 「わかった。……わかった」

 今度は素直に足立の手を取って、プールからあがる。風が吹き付けて、水に浸かっていたときよりよっぽど寒い。それなりに気に入っているジャケットも、スカートも、何もかもびしょぬれだった。自分はなんて馬鹿で、ひょっとしたらこんな時間にプールに呼び出してきた足立よりも馬鹿なんじゃないかと思った。
 貝吹は上着と、その中に着ていたセーターを脱いだ。ワイシャツがぴったりと肌に張り付いて冷たい。いっそのこと長袖なんかやめて、袖の半分くらいから下を切り落としてしまいたかった。

 「じゃあね。送らないでね。ひっそり帰る」
 「ああ、うん。なんかごめん」
 「約束忘れないでね」

 返事も聞き流して貝吹は、今度は扉に向かって走り出す。抱えた上着が煩わしかったけれど、家なら近いのでそのまま走る。このまま風邪をひいてしまえば、それはそれで笑い話が増えていい。一番不必要に思った袖は捲らなかった。







燐さんは、「夜のプール」で登場人物が「約束する」、「長袖」という単語を使ったお話を考えて下さい。 shindanmaker.com/28927 #rendai

愛の反対のあい。

(Sun)

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 「嫌いよ、嫌い。大嫌い」

 彼をどう思う? と聞いただけで、彼女は露骨に嫌な顔をした。

 「そうなの」
 「ええ、きらい」

 決して問い詰めたわけではないのに、その目は非難に満ちている。
 どうしてそんなことを聞くの、と。

 きらいと繰り返し、それはまるでわたしに向けているかのようにすら感じられる。

 「だって、あなた、いつも彼のことばかり話すんだもの。すきなのかと思って」
 「あまり頭の悪い事言わないで頂戴」

 それ以上わたしが続けないのを見て、彼女は顔を背けた。

 「…………ごめんなさい」
 「わかればいいのよ。私、あの人の事嫌いでしょうがないの。っていつも言ってるじゃない」
 「うん、そうだね。ごめんなさい」

 そうして、彼女はまた彼の話ばかりするのだろう。
 その蔑みに満ちた"好き"を、彼女は彼に向けているのでしょう。
 
 もし叶うのなら、あなたに嫌われる彼になりたい。




カーリィ・ナイト

(Sat)

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 「自分が不幸だと思えるうちは、まだ幸せなのよ」


 だって、それは幸せを知っているということでしょう? 彼女はそう続けると、つまらなさそうに僕に目を向けた。灰色の目は僕に意見を求めているようには見えなかったので、僕は黙って続きを待つ。


 「おいしいものを食べたことがあるから、まずいと思うでしょう? それと同じ」
 「だから、愛を知らない君は、愛されない者の気持ちはわからないということか」
 「そう。相変わらず察しがいいのね。そういうところはとてもよろしい」
 「恐縮です」


 格好をつける彼女に半ばふざけて敬礼をすると、彼女は少し笑った。彼女は僕が敬礼をしてみせると喜ぶ。なんでも、人間らしく馬鹿げているところがいいらしい。僕にはよくわからないが、彼女のまるで人間離れした物言いには慣れているので、どうとも思わない。


 彼女は容姿も、考え方も、物言いも、すべてが人間離れしている。全体的に色素が薄くて、ことに灰色の目と同じ色の髪が一番人間離れしている。いつでも面白くなさそうに細められた目は冷ややかで、見つめられると背中がぞくりとすらする。現に、彼女は裸を気にするでもなく枕を抱きしめてベッドにうつぶせているというのに、とても人間とは思えない空気を持っているのだった。堕落した人間の鑑のような格好をしておきながら、微塵もそれを感させず、むしろ高尚な絵画の一部とも思える。

 僕はそっと手を伸ばし、その髪を撫でた。癖毛に指を絡ませて梳く。以前は肩甲骨まであった髪も、今は短く切られている。


 「君、髪、伸びたな」
 「そうかしら。じゃあ切ってもらわなくちゃ」
 「もう伸ばさないのかい?」
 「愚問ね。あなたのそういうところは実によろしくない」
 「申し訳ない」


 彼女が髪をばっさりと切ったとき、僕はショートカットの方が好きだと言った。そのことを憶えているのだろう。彼女にしては珍しく照れていたから、喜んでくれたのかもしれない。


 「案外単純なんだな、君は」
 「そう。そんなものよ。あなただってそうでしょう、よくわたしに敬礼してくれるじゃない」
 「君が喜ぶのなら何でもするさ。それが愛というものだろう」
 「そういうものかしら。なんだか妙ね」


 僕は返事の代わりに、惜しげもなく晒された彼女の背中にキスをした。あまりにも薄くて病的な背中は青白く、今にもばらばらにほどけてしまいそうだった。恐る恐る撫でると、冷えた僕の手には温かくて、彼女が生きているのだと気づく。人間ではないように思える彼女も、生きて動いている。そのこと自体が、微妙なバランスの上に成り立つ華奢な芸術品のようだ。


 「そんなに怖がらなくてもいいのに。わたしを飴細工か何かだとでも思っているの?」
 「それに近いな、少なくとも僕にとっては」
 「そう」


 そう、ともう一度呟いて、彼女はしばらく黙り込んだ。僕はその間、彼女の背に置いた手を見やっては、すべすべだなあ、なんてぼんやりと思っていた。彼女の背中にはきっと、生まれてこのかたニキビなんてできたことがないにちがいない。


 「ところで話は戻るけど、あなたは幸せだと思う?」
 「僕?」


 やっぱり冷たい目で僕を見つめて、彼女はまた切り出した。


 「そうだな、幸せだと思う。確かに思い通りにいかないことも多々あるけれど、それでもザイン、君に触れても怒られないうちは幸せだよ」
 「とても簡単に不幸のどん底に叩き込めそうな答えね」
 「やめてくれ」
 「冗談よ」


 味気なくごまかすと、彼女は面倒くさそうに目を閉じた。はっきりしないということは多分、彼女のある種のアイデンティティーでもあるので、気にはならない。


 「君の方はどうなんだ?」
 「そうね、」

 彼女は目を開けて僕を見ると、面白そうに口の端を上げた。


 「残念ながら、どちらかと言えば不幸かしら。と、言うより、これからそうなるのかもしれない」


 あなたを知ってしまったからね、と付け足すと、彼女はまた目を閉じてしまった。僕はと言えば幸せを知った気分になって、やっぱり彼女の癖毛に指を絡めていた。











傘になって、あなたを待つの。

(Fri)

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「強いて言うのなら、雨になりたいかな」

 彼はそう言うと、結露も気にせずサッシに片手をついた。ふいと私から目を逸らしてしまうと、窓の外に目をやった。


 「あめ?」
 「そう。雨。おれは、雨が好きだから」
 「知ってるよ」
 「まあ、そうだろうな」


 そのまま外を見つめて無言になる彼をぼんやりと眺めながら、私はなんとも不思議な心地でいた。ただどこか遠くを眺めているだけの彼が、この部屋のすべてだった。そこにいたからといって、何かしら特別な存在であるわけでもなく、かと言っていなければ空間が成り立たない。少なくとも、あと一時間もしないうちに彼が去ってしまうだなんて、私には到底信じられなかった。


 「ごめんな。本当は君も連れてってやるつもりだったんだ。でも、今のおれじゃ、無理」
 「うん。知ってる」
 「夏には一旦帰ってくるから、待ってて」
 「うん」


 彼の言葉にうんうんと答えて、聞き分けのいいふりをする。彼はずっと外を見ているから、私が不自然にまばたきを繰り返しても気づかない。気づいていて、見ないでいてくれているのだろうか。あまりにも彼がじぃっと外を見つめているから、私もそちらに視線を移す。窓の外では、冬らしい色をした雨がしきりに降っていた。



 彼の転勤が決まったのは、今からたった二週間前のことだったらしい。でも、私が知ったのは、昨日。昨日の夜は彼が帰ってくるのを待って、私たちは一緒にお気に入りのイタリアンを食べた。彼が真剣な面持ちで転勤の話を始めたとき、私は驚くのではなく、ここ数日の彼の挙動不審の理由を知って、まずは納得したのだった。仕方がない、彼は、エリート研究者だから。ただの転勤ではなくて、今彼が行っている研究の成果が認められ、より設備の良い研究施設で研究することが決まったというのだ。言わば栄転であって、彼を応援する私は素直に嬉しかった。場所と、それからその期間がわからないと聞いて、絶望したけれど。エリートだとは言え、そんな遠いところに恋人を連れて行けるほど、彼の懐には余裕はない。金銭面だけでなく、その他あらゆる面を考えても、私が一緒に行くなんて無理だった。私にだって仕事がある。無理だとわかっていて、告げるのが悲しいから、昨日まで言えなかった、と彼は言う。どうしてそんな大事なことを、最後まで教えてくれなかったのか。

 彼らしいきれいな小物が並んでいた部屋は、今はもうがらんとしている。ついこの前までは生活感に溢れていたのに、すっかり生き物の気配はなくなっていた。彼の部屋だったのに。



 彼はじぃっと外を見つめている。よく見ると、下睫毛に涙がたくさん溜まっていた。私は何も言わない。


 「新しい研究所の近くに、おいしいイタリアンあったらいいな」


 しばらく沈黙が続いて、それから彼は無理に明るい声を出して話し出した。やっぱり少し濡れた目で、私を見ている。


 「あるといいね」
 「そしたら、いつか一緒に食べに行こう。何でも奢ってやるよ」
 「本当? 楽しみにしてる」


 彼はそのまま、向こうに行ったらやりたいことだとか、こんな景色が見えたらいいとか、そんなことを私に話す。彼は科学者のくせに、ロマンチストすぎるのだ。その空想が、全部いつか私に見せることが前提になっているものだから、いたたまれない。またすぐに会えるとわかっていても、この部屋から、彼がいなくなってしまうのが悲しくて仕方なかった。部屋の片隅に積み上げられた段ボール箱たちだけが彼の荷物で、それ以外は誰も彼についてはいけないのだ。彼の寝ていた安いベッドも私も、残されていく。どんなにまばたきをしても堪えられなかった。だんだんと部屋がぼやけていく。この部屋にいる彼の姿を、しっかりと見ておきたいのに。


 「雨にね、なりたいよ」


 唐突に話は戻って、彼は伏し目がちに私を見る。


 「……どうして?」
 「うん、雨になったらどこにでもいけるから」


 もうすぐにでも私の知らない人がやってきて、ここに暮らし始めるたりするのだろうか。そうしてまた、誰かを招き入れて、思い出を作っていくのだろうか。


 「雨になって、いつでも君のそばに流れ着きたい」
 「そうしてよ、」


 年甲斐もなく涙がこぼれる。ただ少し離れるだけなのに。彼は私の頭にそっと手を乗せると、すぐ電話するから、と呟いた。泣き止まなければいけないとわかっていたけれど、どうしようもなかった。


 「そうしたら私、傘になるのに」


 ふともう一度外に目を向けると、やっぱり雨は降り続いていた。せめてこの雨が、彼が向こうに着いた時も降っていますように。



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